私は日本スポーツ協会公認トライアスロン指導員として、
トライアスロンの普及、競技者増進・育成の使命を負っています。
東京オリンピック目前の今は特に、「若手を発掘せよ」というお達しがあるし、
トライアスロン協会もは会員を増やすことに躍起になっています。
トライアスロンはまだまだマイナースポーツ。
指導員数からしても、全国に337人しかいません。(2018-10-1現在)
各県に7人くらいしかいない計算です。
(サッカーは20000人以上いるそうです。)
脱マイナースポーツ、メジャースポーツに昇格させることが
日本トラスロン連合と各県トライアスロン協会の目標です。
私個人としてもトライアスロン仲間が増えてくれることは
嬉しいことです。
でも、増えて欲しい、と思いつつも、
一般の方に対して、積極的に勧められないという葛藤もあります。
どういうことでしょうか。
気軽にトライアスロンを勧められない理由
トライアスロンは危ない
ご存じの通り、トライアスロンは3種目です。
水泳、自転車、ランニングのそれぞれを
ある程度のレベルでこなせるようになって
初めてスタートラインです。
どれか1つでもできない種目があればトライアスロンはできません。
命の危険に直結するからです。
スイムの危険性
まず、スイム(水泳)。
ほとんどの大会で海を泳ぎます。
プールで少しくらい泳げる人でも、海では勝手が違います。
プールでは経験できない高い波。
横から前から後ろから、不規則に体を揺さぶられて、
波酔いのような状態になる人もいます。
さらに、沖に出れば、水深が深くなります。
5m、10mとなると、視覚的に海底が遠くなり、
急に恐怖心が大きくなることが考えられます。
逆に、濁った海では方向感覚を失いコースから外れる人がいます。
そして、バトル。
プールで泳ぐ「水泳大会」は1人に1コースが割り当てられますが、
トライアスロンは時に1000人以上が一斉に泳ぎます。
当然、コースロープはなく、互いにぶつかります。
希に、悪意を感じるほど、叩かれ、蹴られ、つかまれ、引っ張られ、
上に覆い被さられ、沈められます。
このような状況下でも、パニックになることなく
冷静に泳ぐ技量が必要です。
最近ではスイム競技中での死亡事故が急増しています。
大会側はウェットスーツ着用義務づけや、
少人数ずつで小分けにスタートする方式を採用することも多くなりましたが、
それでもなお、スイムは、ひとたび海に出ると、
緊急時の救助が遅れるということもあり、
トライアスロンの中では最も危険な種目です。
バイクの危険性
トライアスロンでは、
DHポジションという、ふつうのロードバイクにはない体勢をとるのが一般的です。
このDHポジション、空気抵抗を減らして
速く走るためには非常に効果的ですが、
深い前屈みとなり、
ハンドルを握っている体勢に比べて、とても不安定な乗り方です。
このポジションに慣れていないと、
バランスを崩して転倒するリスクが高くなります。
特に、コーナリングや登り坂、不意な突風では、
上手にハンドルを持つポジションに切り替えながら乗る必要がありますが、
これができない人も多いです。
また、DHポジションではブレーキがかけられないので、
咄嗟に障害物をよけたり、車や歩行者の飛び出しに対応するのには
バイク操作のテクニックを要します。
今まで、ロードバイクに乗っていた人でも、
DHポジションでの走行に充分に慣れておく必要があります。
バイク走行中は、下り坂など、コースによっては
50km以上、時には70km程度までスピードが上がります。
コースは完全な交通規制をかけないまま行うレースも多く、
常に事故の危険と隣り合わせなのがバイク競技です。
時速50km以上と言えばオートバイ並の速度なのに、
ウェアはペラペラのメッシュ生地で肌を露出し、
ヘルメットだって、オートバイのフルフェイスなどに比べたら、
なんとも華奢な作りです。
そんな装備のまま50kmのスピードで転倒したらどうなるでしょう。
また、最近多いと感じるのが、激突事故です。
停車中の自動車やガードレールに激突し、
死亡事故となる事例も増えています。
例えば、長い時間バイクに乗って、疲れてきたときなど、
うつむき、下を向いて走る人がいますが、
とても危険です。
どんなに疲れていても、前方に視線を送りながら走ることが大切です。
ランニングの危険性
最近は空前のランニングブームで、
近所の河川敷など、ランナーさんがとても増えました。
トライアスリートの中でも、市民ランナー出身の方が多い気がします。
最初はダイエット、健康作りのために始めたランニングから、
体力向上に伴い、水泳や自転車、そしてトライアスロンも始めた、というパターンでしょうか。
たしかに、ランニングは自分なりにペース調整しやすいですし、
普段の練習であれば、それほど遠出にもならないため、
体調の変化や緊急時の対応がしやすいので、
それ単体で見たら、さほど危険性は高くないかもしれません。
だからこそ、ランニング人口が多いのでしょう。
しかし、これがトライアスロンの3種目目のランとなると少し話が違います。
単体のマラソン大会と違い、
トライアスロンのランは、最終種目です。
つまり、レースによっては、
スイム3.8km以上、バイク180km以上を走った後にランスタートです。
人によってはスイムとバイクで8時間以上動き続けてからのフルマラソン42.2kmのばあいも。
ランスタートの段階でかなり疲労困憊の状態と言えるでしょう。
最終種目ですので、頑張りたい気持ちと裏腹に、
体力的には限界に達していることも少なくないのです。
補給や給水の仕方如何では、熱中症や低ナトリウム血症のリスクが高まります。
比較的安全なランニングでさえ、
トライアスロン競技の中では死亡事例が多数あります。
トライアスロンはお金がかかる
トライアスロンをやるためには、
3種目に必要な機材をそろえる必要があります。
最低限、これだけは必要、と思うものを
競技使用に耐えうる品質での最安値水準で考えると、
トライアスロンウェア 1.5万円
ウェットスーツ 3万円
ゴーグル 0.2万円
自転車(完成車) 25万円
ヘルメット 1.5万円
サングラス 0.5万円
シューズ 1.5万円
ボトル等小物 0.5万円
ランニングシューズ 0.8万円
キャップ等小物 0.5万円
ここまでの計 35万円。
かなりザックリとした計算です。
これはレースに出るための機材費です。
さらに、普段の練習や機材の維持等ランニングコストで、
水着 0.5万円
スイム小物 0.3万円
バイクウェア夏用 0.7万円
バイクウェア冬用 1万円
スペアタイヤ 1万円
バイク点検等工賃 1万円
ランニングウェア夏用 0.7万円
ランニングウェア冬用 1万円
シューズ交換 1.5万円
レース参加費 5万円
計 10.7万円 です。
これは毎年かかる経費です。
したがって、最初は50万円程度かかる計算ですね。
これ、かなり安く見積もってます。
機材やウェアなどは競技志向になると、
この倍以上が普通になってきます。
(トップレベルの人は3倍以上・・・)
このように、一般庶民には理解できないくらいの費用がかかるのがトライアスロンです。
たかが趣味にこれだけのお金を投じられるかどうか。
これだけの高額を支払って、
命の危険があるようなことをやろうというのですからね。
気軽に勧められるもんじゃありません。
トライアスロンは時間がかかる
3種目をこなす必要があるトライアスロン。
レースで安全に楽しく走るためには練習が必要ですね。
どんなスポーツでも練習は必要ですが、
一歩間違えば命の危険がある競技、しかも3種目となると、
その練習時間も長くなります。
一番長いレースは
競技時間が15時間におよぶこともある競技です。
フルマラソンだけでも一般人からしたら大変なのに、
スイム3.8km泳いで、自転車で180km走って、
それからやっと42.2kmのフルマラソンです。
ちょっとやそっとの練習では完走すらできません。
仕事が忙しくても平日2時間、
休日は4時間以上とか・・・
持久力を付けるために長い時間をかけて練習しなくてはいけません。
職場や家族の理解は必須ですし、
自分の余暇時間はすべてトライアスロンにつぎ込むことになります。
ダイエットや健康目的ならトライアスロンじゃなくても良い
以上のように、トライアスロンという競技は、
自然を相手に、長い距離を、長い時間をかけて走るという特性上、
かなりの危険性を伴った競技と言えます。
だからこそ、その危険性と向き合い、心技体を向上させて
チャレンジし、達成するところに魅力があるのです。
しかし!
やはり、軽い気持ちで始めるべきスポーツではないのは事実。
もしも、ダイエットや健康目的なら、
ジョギングや、スイミングスクール、
筋トレで充分ですからね。
以上のことから
死ぬかもしれない危険な競技を
何十万、何百万というお金をかけて、
余暇時間のほとんどを練習に費やす。
これがトライアスロンです。
このようなスポーツを、
やはり、私個人としては
気軽に「やろうぜ!」というのは無責任だなぁと思うわけです。
でも、困難を乗り越えて、
達成したときの喜びはハンパないということは保証できます。
個人個人が良く考えて、
覚悟を持って「やる!」と決めたら、
その時には、指導者の立場として全力で応援したいと思ってます。
まとめ
●協会など上部団体は競技者数を増やしたい。
●協会から指導員等に競技者発掘のお達し。
●でも、トライアスロンは、危険、お金がかかる、時間がかかる、ので気軽に勧められる競技ではない。
●ダイエット、健康目的ならジョギング程度で充分
●トライアスロン、困難ではあるが、乗り越えて達成したときの喜びは凄い!
●良く考えて、覚悟を持って取り組む人には全力で応援するぜ!
今回は以上です!
はちゃの!